採掘場
安価な素材を遠く離れたところから燃料を使って運ぶより、気候風土に適した地元素材を建築に用いることは、自然なことだと思う。
栃木県で採れる建築素材には、杉や桧などの木材、消石灰を原料とした漆喰、苦灰石を原料とした伝統的左官外壁仕上の掻き落とし、そして、宇都宮市大谷町で採掘される大谷石がある。
現在、大谷石を採掘しているのは町内で5社のみと、産地でありながら希少である。
なかでも「北戸室石下石材店」の大谷石は、ミソが少なく素性が良い。
そんな石下さんとは、かれこれ10年以上のお付き合いになる。
この日は、薪ストーブ廻りで用いる大谷石の打合せを兼ね、伴さんと採掘場を見学することに。
地底にある採掘場の入口を目指し、不慣れな足場をトコトコ下りてゆく。
途中、先導して下さった作業員の方を見失いつつも、何とか採掘場の入口に辿り着く。
中に入ると気温は約8度。
地下神殿のような空間が広がっていた。
採掘現場までさらに下りてゆく。
採掘の手順は、最初に機械で切れ目を入れる。
一見すると切れ目を開いているように見えるが、実際は石を剥がしている。
一本のくさびで動きを止め、三本のくさびを打つことで、作業員の膝下にある石の底面が岩盤から剥がれる。
このように大谷石の原石を採掘し、地上に揚げ、様々な製品に加工される。
採掘に従事していた作業員は3名のみ。
運搬や荷揚を除き、採掘に要する機械は切れ目を入れる機械のみ。
立木の伐採でさえ機械化が進むなか、大谷石の採掘は丁寧な人の手仕事が支えていた。
大きかろうと、小さかろうと、この地の気候が生んだ産物であり、風土に根差した人の手でつくられている。
気候風土に適した地元素材を建築に用いることは、自然なことだと思う。改めて。